雪――たとえ雪が降っていなくとも見えない雪を見られるひとでありたい


小さい頃から

朝起きて

やけに静かでひんやりしているときには

胸がおどる



昨日の京都は

近年稀に見る大雪で



深々と降りしきる

ふわっと重たい雪を眺めていて

いつまでも飽きないと思ったり



雪国のひとたちの多くが

心穏やかでしっとりしているのだとすれば

そのわけがわかる気がした



雪は

普段見えにくい時の流れを可視化してくれ

しかも

その認識の尺度を 

とてもゆっくりなものにしてくれる

ペースメーカーなのだろう

こんなペースメーカーと共に人生を歩みたいと思ったり



音を消してくれるから

とても静かで 耳が休まるし

こころのノイズも消してくれるのがいい

さらに

ドギつい色にあふれた いつもの世界を

やわらかい白のグラデーションで包んでくれて

目が休まる



目も耳も癒されて 神経が休まるのがいい



思い通りに動けなくて困るのもいい

現代人は 過去の人たちと比較して

万能感を持ちすぎているだろうから

人間関係以外で苦労して

自然に対して謙虚になるのも

たまには悪くないだろう

さらに そういう状況では

困ったときにはお互い助け合うという

人間の持っている大切にして失われがちな

特徴が戻ってくるのがとてもいい



ふだんなら言葉を交わさないですれ違うひとたちと

たくさん言葉を交わして

なんだかとてもこころあたたまった

「寒いですねえ」と言いながら

こころあたたまる

そんな寒さなら歓迎だと思ったり



雪って現代人のこころのお薬なのだろうね



京都では

雪はめったに降らないから

めでたい 愛でたい

とても貴重でぜいたくな薬なんだ



最近

地球の温暖化により

雪や氷河が消えつつあるとかないとか聞くけれど

もし雪がなくなってしまったとしたら

さらに生きるペースが速くなってしまうのかもしれないね

温度を上げると速さが増すというのは

よくあるハナシで

そうすると

さらに地球は温まるのだろうね

こういうのを

悪循環というのだろう


最近は 

競争社会とか格差社会とかよく聞くけれど

そういう言葉に必要以上に踊らされないほうがいい

自我の小さい人と同じ土俵に乗ってはダメだ


人間は

協力しないと生きていけない

単体では

ライオンや熊にはもちろん

ほとんどの動物にやられてしまうだろうし

エサもろくにとれないだろう

それぐらいに弱い


なのに

現代人がほとんど食われることなく

ウイルス以外に圧勝し

悠長に生きることができているのは

長い年月をかけて知恵を積み重ね

協力し 助け合って

食べものを作り

道具を作り

共に生きてきたからに他ならない


上のハナシが一面しか捉えていないとしても

現代のような

強くなりすぎて勝ちすぎている状況において

固くて小さい自我に囚われたひとが多いのは

とてもまずい

下手をすると滅んでしまう


やわらかく大きな自我をもったひとの割合を増やし

適切なバランスに導く必要があるだろう


競争や格差がただ悪いと言いたいのではなく

もし持続可能な文明を設計したいのであれば

今の状態はバランスが適切でないと言いたいだけである


悪循環から抜け出す方法のひとつは

たぶん

複数の要素を同時に動かすことなんだけど

悪循環に陥ってからではどうしようもない場合もあるわけで

雪が降るような幸運に恵まれるともかぎらない


要するに

悪循環に陥ってからでは遅いということと

どうなれば悪循環に陥るのかを

身をもって知っていて

悪循環に陥るまえに

コツコツこまめにシステムを修復していくことが大切で

知恵とはこういうことを言うのだろうね


こまめに修復するのに適したシステムのスケールが

おそらく存在する

分権型社会という流れは

そういう観点で見れば

必然だと思ったり


それはさておき

もし

雨より速いスピードで雪が降ってきたとしたら

気が狂いそうになるだろうね



たとえ雪が降っていなくとも

見えない雪を見られるひとでありたい