〇〇ぐみのみんなへ

この文章は、ぼくが2011年4月末に幼稚園の先生を急きょ退職することになった日の夜に徹夜で書き、翌日の退職日当日、子どもたちに手渡した手紙を一部改変したものです。ぼくの教育観の一部が反映されたものになっているため、公開しておく価値があると判断し、本ブログに掲載しておくことにしました。




〇〇ぐみのみんなへ


〇〇〇くん、〇〇くん、〇〇〇ちゃん、〇〇〇〇〇くん、〇〇〇ちゃん、〇〇〇くん、〇〇〇ちゃん


たとえ、お父さんお母さんにこのお手紙を読んでもらったとしても、むずかしくてわからないことだらけだと思うけれど、本当に、本当に、大切だとせんせいが思うことを、どうしても伝えておきたかったから、どうか許してね。手書きで書けなくてごめんね。


みんなが、小学生になったときにも、中学生になったときにも、成人式を迎えたときにも、読み返してくれたとしたら、本当にうれしいな。



じつは せんせいは、4がつ28にちで、ようちえんを やめることになりました。
だからもう ざんねんながら みんなと たのしくあそぶことが できなくなってしまいました。


きゅうに こんなことになってしまって ほんとうにごめんね。



きょうのよる、〇〇ぐみのへやで、みんなのロッカーを見つめたり、そうじをしたり、みんなのいすをいつものようにまるくならべたりしているうちに、なみだがとまらなくなってしまいました。


みんなの、ひとりひとりのかわいい笑顔、心のぬくもり、肌のぬくもり、かけてくれた言葉…一緒にいろんな歌を歌ったね、さよならぼくたちのようちえんも歌ったね、虫とりもパン屋さんごっこも、おうちごっこも、こおりおにも、泥団子づくりも、折り紙も、スゴロクも、かたぐるまもしたね、そして…他にも…数えきれないほどいろんなものがワーっと浮かんできて。


おいのりでは、〇〇ぐみのみんなが、そして他の組のみんなが、怪我や病気をせず、健康にすごせたことを感謝し、そして、今後のみんなの健康と、病気で休んだお友達の健康、そして、みんなにたくさんの感動や学びが訪れることを祈ってきました。ひょっとすると、ほんとうの礼拝にはなっていなかったのかもしれないけど、じつは、せんせいは、じぶんのことばで、みんなのこころに静かに語りかけていたんだよ。どうなんだろう?伝わっていたとしたらうれしいな。


ピアノは結局いちどもひいてあげられなかったね。ピアノの音色は本当にきれいです。心を揺さぶります。近々練習をして、なんとか聞かせてあげたい、演奏しながら一緒に歌いたいと思っていたのだけれど、結局できなくてごめんね。でも、みんなと同じいすに座って向かい合い、同じ目線で、ひとりひとりの目をやさしく見つめて歌うことがせんせいはすきでした。みんなの微妙な心の変化が、鋭敏な感受性が、目や表情を通して伝わってきて、毎日感動していたんだよ。ありがとう。


せんせいは、言葉を愛しています。色彩を愛しています。そして何より、人間をこころから愛しています。だから、それらのものが凝縮されている絵本がだいすきです。その絵本をよむときには、一つ一つの音を、言葉を、静かに丁寧に並べ、せんせいの心のありったけのやさしさや育んできた感情を駆使して、せいいっぱい思いを込めて読みました。本の内容も、できるかぎり吟味しました。もし、みんなの心に、本の内容はもちろんのこと、せんせいが心より大切だと思っている何かが少しでも伝わっていたとすれば、本当にうれしいです。



そういえば、きょう、みんなはせんせいがじぶんのことをぼくと言ったのを笑っていたね。たしかに、ぼくはみんなにとって、〇〇ぐみのせんせいだったのだけれど、同時に、一人の人間です。一人の大人の人間です。これから、一人の人間としてのぼくが、一人の人間としてのみんなにこころから伝えておきたいことを言わせてね。


ぼくはきょう(4月28日)の帰りのコースの時間の前に、以前にも読んだ宮沢賢治の「竜のはなし」という本を読むつもりです。みんなが「面白い。もう一回読んで。」と言ってくれ、二回続けて読んだあの本です。


ところで、みんなは、やさしいって、どういうことだと思っていますか?


ぼくはこう思います。


本当に、本当にやさしい人になるためには、とても強く、そして、とても賢くなる必要があると。


やさしくなるということは、生半可なことじゃないのです。本当に強い人、つまり、やさしい人になることができれば、弱さゆえの悪に走ったり、不適切な行動をとってしまったりする人に対しても、根底で愛することができるようになります。もちろん自分自身はそのような弱さゆえの行動をしたいとも思えなくなります。みんながいずれ、たくましくて本当の意味でやさしい大人なり、未来の社会をより幸せで賢いものにしてくれることをこころから祈っています。



みんな、仲良くしてくれて、心を開いて受け入れてくれて、本当にありがとう。ぼくは、みんなから本当にたくさんの心の栄養をもらいました。この一ヶ月間で、今までより少しやさしい人間に、たくましい人間になることができたと思っています。そして、自分の幼少期を追体験しました。人間の発育というものを、特に幼児期というものを少し学ぶことができ、またひとつ人間理解が深まったと思っています。みんなから学んだことは、これから、世の中をよりよくするためにいかすことができると思っています。学びは一生続く長い道のりです。小学生になっても、中学生、高校生になっても、大人になっても、おじさんおばさんになっても、おじいさんおばあさんになっても、どうか、焦らぬよう、しかし着実に、時には後退してもよいから、粘り強く自覚的に学び続けられることをねがっています。そして本当にステキな人になってください。



ぼくの大好きな〇〇ぐみのみんな。どうか、ステキな大人になってね。

生きていればいろんなことがあります。

もしみんなが、かりに、将来不登校になる時期があったとしても、非行に走る時期があったとしても、ぼくはその程度でみんなを(みんな以外も)見捨てることはしないから、安心してね。ただし、一線を越えないこと。これを覚えておいてほしい。そして、いずれはよき人でありたいと願うことのできる人になってほしいな。



ぼくはずっと舞鶴にいるつもりです。舞鶴をもっともっとステキなまちにしていくつもりです。だから、またどこかで出会えるかもしれません。

出会ったときには、みんなが何歳になっていても、話をしてくれるとうれしいです。

ぼくはきっとみんなのことを一生忘れないと思います。



つぎに〇〇ぐみのせんせいをする〇〇せんせいは、とても優しくて人間らしいステキなかたです。〇〇せんせいのもとで、みんなにたくさんの感動や発見、学びが訪れ、心と体がすこやかに育まれることを祈っております。大きな事故や病気をすることなく、どうか楽しく、実り多い一年になりますように。



ちゃんと車が来ていないかよく見て道を渡るんだよ。〇〇〇ぐみや〇〇〇ぐみのひとたちをちゃんと連れて行ってあげてね。







じゃあね バイバイ





〇〇ぐみ担任

岡安 賢治