鞍馬の火祭り――キン肉マンは鞍馬に住んでいる


 リングに稲妻走る秋、京都盆地の北に位置する鞍馬山では、伝統的にキン肉バスターが行われつづけている。キン肉バスターのことを、鞍馬ではチョッペンと言い、毎年十月二十二日の「鞍馬の火祭り」における元服の儀式となっている。

 
 ぼくはキン肉マン憧れが強い。つまり、ああ、こころに愛がなければスーパーヒーローじゃない、という意見に賛成だから、当然、二千七年十月二十二日、天狗の住む山へ向けて北上した。京都は、南から北へ進むと、あるところで気温が一変する。この境界線を、伝統的に今出川通りと言う。さらに北上し、天狗の臭いが漂うあたりまで来ると、冷蔵庫に入ったと錯覚してしまうほど、ひんやりしてくる。天狗はたぶん暑がりなのだろう。期せずして、冬を先取りしてしまいながら、さらにGo! Go! Muscle!すると、急遽草を刈って無理やりつくったと思しき駐輪場にたどり着いた。停めようとして前を見ると、なんと、ぼくの前の大型バイクが、走るすべる見事にころぶを平然と実行していてまいった。

 
 親戚やご近所さんと宴会をしている家々、表に出てのんびりしているおじいさんおばあさんを眺めながら、由岐神社への上り坂を進んだ。くらまには、現代の市街地が失った多くのいいものが存在する。木々の香りが心地よい。たくさんの生き物の気配。ひんやりきれいな空気。人の絆。くらまのようなところに住みたいと、こころから思った。

 
 薄暮、由岐神社で月を肩に乗せた800歳の杉の大木に会った。

 
 宵、ほのおがゆらめく幻想的な雰囲気のなか、祭りがはじまった。「さいれいや!さいりょう!」と言いながら、松明をかついで歩くちいさな男の子。威勢のいい男衆。この日のくらまの人はチョッペンをせずとも、正真正銘、正義超人であった。ほんとにみんなステキだった。こういう、人と人とのあたたかい輪の中で育つ子どもは幸せだと思う。こんな祭りなら、ずっと続けてほしい。日本の祭りはくらまにある。

 
 露店では、天狗のマスクが2400円で売られていた。くらまにも完璧超人の足音が忍び寄る。あなおそろしや。
   
 
 大根の入ったあつあつの豚汁を食べながら見た、たいまつから落ちる火の粉は、黄金の雪のようであった。

 
 
 鞍馬天狗

 黄金の雪を降らせけり

 

 くらまは寒くても

 あたたかいところであった。