うるおいと効率の汽水域


新幹線は

便利で快適だから

本当に助かる

けれども

乱暴だ

晴れた日の午後

車窓を通して出会った

黄色い帽子をかぶった小さな男の子に対して

洗濯物が干してある家々に対して

触手を伸ばし始めた感情は

技術の生んだスピードによって

強引に引きちぎられたままだ


ニュース番組も

同じだ


便利は

にんげんが

必死で身を守ろうとした結果

生み出された宝石だ

だから尊い


一方で

刺激に対し

時間をかけることで喚起される感情がある

その感情は

摩擦の多い人間関係や動物や植物たちとの関係に

うるおいを与えてくれる

だから

これも尊い


効率は神様じゃないし

うるおいのこころも神様じゃない

つまり

万能じゃない

そんな今のかたちを

いきいきと

自覚できる感性を養うだけで

こころが自由自在になる

うるおいのわかるこころが生み出す技術は

どんな色をしているのかな

きっと

まだ誰も見たことのない

うつくしい質感をもっているんだろう


今の世の中は

少し重心が効率に偏ってしまっていて

うるおいが足りないから

悲しい事件がたくさん起こるのかもしれないね


効率を考えているときに

うるおいのこころは同居していない気がするし

うるおいのこころでいるときに

効率を意識することは少ない気がする


なぜだろう


だぶん

効率は固執や能動と仲よしで

うるおいは受動と仲がよい

だから

うるおいと効率は

今のところ

少し仲が悪いのかもしれないね


ひとりで同時にできないのなら

たくさんのひとで

分担すればいいのかな

いろんな人が

適切なバランスで存在していれば

いいのかな

効率偏重のひと

うるおい偏重のひと

そして

ひとりひとりが刻一刻揺らいでいる


ぼくは

そんなたくさんの生き物のうちの一匹として

うるおいと効率の汽水域で

ゆらゆら揺らぎながら

生きていきたい