日本むかしばなし第1話−つめたろう


 むかしむかし、たろうは、深夜、喫茶店で本を読んでおりました。

 
 しばらくして、たろうのとなりに三人ぐみが座りました。おじいさんと、若い男と若い女でした。

 
 若い女は、みんなの分の水をくんだり、おじいさんの飲み物と食べ物を注文したり、おじいさんの欲しがるものを、おじいさんが口にする前に、すばやく察知して渡したりと、それはそれは気の利く人でした。

 
 若い男は、ずっとだまって座っておりました。

 
  
 そのときです。突然、おじいさんが


「まいったまいったマイケルジャークソン!」


と、それはそれは大きな声で、言い放ったのです。

 
 そのお店にいたお客さん全員の動きを止めてしまうほどの、破壊力でした。もちろん、たろうもケーオー寸前になりました。
 
 
 ところが、女は、そんなことは慣れっことでもいわんばかりに、平然と、


「なんですか?それは。」


と、愛想よく、しかし、軽やかにステップを踏んでかわしました。



 しばらくして、おじいさんが、今度は、


「困った困ったこまどり姉妹!」


間髪いれずに、


「ダンケシェーン!」


と、それはそれは大きな大きな声で、しかも、今度は、ジェスチャーつきで言い放ちました。

 
 そのとき、冷たいモノが、たろうの体をつきぬけていきました。

 
 たろうは、すぐさま


「ごちそうさまでした。」


と珈琲カップを返却すると、鶴になり、空に舞い上がり、山の方に飛んで行ってしまいました。


 おわり