朝礼1
みなさんは、木が好きですか。
わたしは、木が大好きです。
木の幹には、長い年月の間に経験してきた苦しみや喜びが、刻印されているからです。
一つとして同じものはない、それぞれがユニークなかたちをしています。
幹を見るということは、時間を見るということです。
目の前の人の幹を見てほしい。
遠くにいる人の幹を見てほしい。
はじめて会った人の幹を見てほしい。
すずめの幹を見てほしい。
かまきりの幹を見てほしい。
すべての枝は幹から生えています。
花や枝だけに目を奪われると誤ります。
そして、地中では、地上に出ているのと同じくらいの高さの根が必死で大地をつかんでいます。
見えている部分だけで判断しようとすると誤ります。
実は、見えているより、木はずっと背が高いのです。
裏朝礼
みなさん、おはよう。
今日は全校のみんなに、うれしいお知らせがあります。
実は、先生が、ベランダで育てていた朝顔が、とうとう咲きました。
あなたは生まれるのが遅かったから、(つまり、先生が種をまくのが遅かっただけのことなのですが)寒くなる前に花開けるかどうか、ひやひやしながら見守っていたのですよ。
台風が来て、植木鉢ごところんだ時もありましたね。
巻きつけるものがなくて、あたふたしているときもありましたね(つまり、先生が支えの棒をホームセンターに買いに行くのが遅くなったということです)。
友達がいなくて、さぞかし寂しかったでしょう。
5日にわたる干ばつにも、よく耐えましたね(つまり、先生が実家に帰省してしまっていたのです)。
よくここまで成長したものだと、感心しています。
苦労したからこその、深みのある、しかし透きとおった真っ直ぐな紅色には、自信を持っていいと先生は思います。
けれども、花だけがあなたの人生の目的だとは、先生は思ってほしくない。
目に見える成果だけに囚われる人にはなってほしくない。
努力する過程にこそ、生きる喜びと充実を見出してほしい。
今を見つめてほしいし、時間も見てほしい。
あなたは、杉やケヤキのように、逞しく大地を踏みしめて立つことができませんね。
他者に寄りかからないと生きていけませんね。
そのかわり、柔軟性をもっていますね。
短所はそのまま長所でもあります。
ただし、自分のかたちは自覚しておいたほうがいいと、先生は思います。
自覚していれば、いざという時、受身が取れるでしょうし、大けがをしなくて済むでしょうから。
つらい時には、先生がいるということを思い出してください。
あと、できればもう少し寝坊してもらえると先生はうれしいかな。
さて、みなさんは、今の先生の言葉を聞いて、先生の枝と幹がほんのすこしだけ見えたのではないでしょうか。
みなさんは、木が好きですか。
先生は、木が大好きです。
木の幹には、彼が生きてきた長い年月の間に経験してきたたくさんの苦しみや喜びが、刻印されています。
一つとして同じものはない、ユニークなかたちをしています。
幹を見るということは、時間を見るということです。
みなさんの目の前の人の、
遠くにいる人の、
はじめて会った人の、
すずめの、
かまきりの、
幹を見てほしい。
すべての枝は一本の幹から生えています。
幹を見るということは、人格を尊重するということです。
そして、地中では、地上に出ているのと同じくらいの高さの根が必死で大地をつかんでいます。
見えている部分だけで判断すると誤ります。
実はみなさんが見ているより、木はずっと背が高いのです。